
・∴・・∵・・∴・・∵・∴・・∵・・∴・・∵・∴・・∵・・∴・・∵ さよならから始まる物語 ∴・・∵・・∴・・∵・・∴・・∵・・∴・・∵・∴・・∵・・∴・・∵ 10話〜/20話〜/30話〜
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2話
小春日和だわ。
日差しは暖かい・・・。
目を覚ますには窓を開けて外の空気を入れてしまうのが一番。
南側の窓を開けると少しひんやりした空気が・・・?
ベッドの端に戻って腰掛けたとき。
ぽとっ
何かが窓の張り出しに落ちてきたの。
何だか黄緑の。
それはよく見るとセキセイインコだった。
きょときょとと見回しているけど逃げるそぶりもなかったのよ。
なぜ?
でも小鳥の餌が残っていることを思い出したの。
「ここに来て待っていてくれたら・・・。」
ぱさっ
急に声を掛けたら少しインコは驚いた様子だが、
少し羽を振るわせただけで逃げなかった。
「いいものもってきてあげる。」
ぱさぱさぱさっ
不思議なことに机の上まで飛んでおとなしく待っている
様子なの。
さっそくあたしは小鳥の餌を机の上に少しだした。
ちょんちよんと近寄って食べ始めたインコはきれいな
エメラルドグリーンに輝いた。
えっ。
色が変わったような気が・・・・。
でもこっちの色の方が好き。
光の当たり具合で違うように見えたのだろうと納得した。
外でスズメに混じって飛んでいたとは思えないほどきれい。
タイミングよく飛んできたものだわ。
このうちに食べるものがあることがわかったのだろうか?
少し前にカナリヤを逃がしてしまった。
レモン色のカナリヤ・・・。
おっと。
こんな事をしていられないのだわ。
あたしは何気なく自分の小鳥の様なつもりで部屋の片隅の
カナリヤかごの扉をあけて。
「この中で待っていてくれたら・・・。」
ぱさぱさぱさっ。
えっえっえっ! どうして?
まるで当然のようにかごの中に入って、
気持ちを見抜いてかインコは小首を傾げて見せた。
そこで、脅かさないようにそっとかごの扉をしめて
あたしは会社に行くことにしたの。
「じゃあね。 会社に行って来るわ。」
ぴちゅ
一声鳴いて答えたようだ。
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3話
ぱさぱちぱさ
ぴちゅっ ぴちゅっ
会社から帰るとおとなしく待っていてくれた様子。
会社の事はね。 話したくないの。
あっ
そう言えば名前も付けていなかった。
賢いみたいだし、何か個性的な名前はないかしら。
そう言えば。
MLにかわったメールを送る子がいたわ。
そう、まっしゅ。
「マッシュ〜ぅ。」
「あなたはマッシュよ。」
何だか小鳥には似つかわしくないような・・・。
ぴちゅぴちゅ
羽毛を一寸逆立てて鳴く。
まあいいか。
かごの扉を開けて部屋の中を飛べるようにしてやる。
マッシュは賢いから・・・・。
さて、メールのチェック。 マッシュは部屋中を飛び回り
カーテンにぶら下がるように留まったりする。
あたしは自分のサイトも持っているのよ。
(遊びに来てね。)
これはこれで結構忙しかったりする。
じっじっ
マッシュは肩に留まってきた。
だけど、すぐパソコンデスクのマウスの横に来て
パソコン画面の中を見るような様子。
わかるのかな。
まさか。
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4話
彼がイギリスに出張してしまった後のあたしにとって、
マッシュは丁度良い遊び相手になって気が紛れた。
でも、いいな、あたしもイギリス行きたかったな。
仕事で行くのはイヤだけど。
根が散漫なあたしは、彼の事を考えたり新しく来たマッシュと遊んで
いなくなったカナリヤの事もすっかり忘れた。
マッシュは甘えたですぐ巣箱に入りたがるの。
かごから出してもしばらくは飛び回っているがすぐに人に留まりに来るし。
狭いところに潜り込むのも好きなようで袖口から服の中に入って襟元から
出る遊びをいたく気に入っているご様子なの。
食べ物にも好みがあるみたい。
小鳥の餌はあまり食べない。 よっぽどお腹がすいているときだけ食べるの。
後はお菓子を期待しているみたい。
この前ショートケーキを食べていたら、ふざけて上げたイチゴや生クリームも
食べてしまった。 全く変な鳥よね。
あっという間に一週間が過ぎたわ。
だけど、彼がイギリスから帰ってくるまでまだ一ヶ月半近くあるのよね。
今日はマッシュの元気がないの。
外はしとしとと秋の雨。 うっとおしい。
元気がないのは天気が悪いせいかしら。 昨日は元気だったのに。
何だか羽毛の艶も無くなって急に老けたみたい。
ジッとして羽毛を膨らませる。
昨日はひとのおやつまで取ったくせに。
病気?
いやだな・・・。
あたし、マッシュに唇を奪われてしまったのよ。
彼とも何回もキスしていないのに!
実はあたしまだ彼に体を許していないの。
なんでって。
それは・・・・・・・・・・・・・・。
まだ経験がないのよ。
普通は短大を卒業する頃には経験があるって?
いいじゃないのよ!
少々おくての何が悪いの。
ぷんぷんっ。
ってあたし何を勝手に怒っているのだろっ!
キスっても、マッシュがあたしの口からお菓子を取ろうとしただけの
事なんだけど・・・・・・・。
唇をちょっと噛まれたような気もするし・・・・。
すこし、めまいがしたような気もするし。
そう、その時すこしめまいがしたの。
時計を見たらいつもより余分にマッシュと遊んでいたみたいだったし
急いでマッシュをかごに入れて家事を済ませたの。
でも、その時からマッシュは少し元気がなかったような気もするのよね。
なっなんと!
あたしは病気なの?!
何だか、熱っぽい様な。
きゃ〜っ たすけて〜ぇ゛
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5話
あたしの名前はYaco。 凸凹出版の一般職。 平凡なOLね。
セキセイインコのマッシュに病気を貰ったと思ったんだけど・・・・。
ねぇねぇ
鳥の病気ってそんなに簡単に人様に染ってしまう物なの?
って読者に聞いてどうすんだあたしは。
それよか、マッシュの心配をしないあたしって薄情者?
聖人ではないあたしはやはり鳥よか自分の身の方がかあいい。
だってほんとにかあいい女の子なんだもん。
むっ
何よ。 見たこと無いのに判る分けない?
あたしはイヤなんだけど華原朋美に似てるって、そのものだって。
全く失礼な話よね。 あたしはあたしなんだから。
でも、かあいい女の子にはかわりない。
OLやり始めたらおばさん何て声には耳をかさないわ。
すこし、落ち着くとマッシュの事も心配になってきた。
でも、病気という程の事もなさそうなの。
羽毛のつやが無くなって妙におとなしくなっただけ。
急に歳をとったみたい。
あたしがキスでマッシュの若さを吸い取った?
あたしはバンパイアじゃないもん!
イギリスに行っている彼はどうなるのよ。
じじいになっているとでも言うの?
いや〜ん
まだ何にもして無いじゃない。 じじいになっちゃいや。
なぁ〜んて・・・。
んなことある訳無いわ。
ええーい。
もう考えるのやめた。
病気じゃないんだわ。 そうよ。 そうよ!
そうに決まったわ。
いま、あたしが決めたんだからそうに違いないわ。
とにかく会社に行かなくっちゃ。
雨はうっとうしいけどね。
あ゛〜っ遅刻するぅ〜。
ーーーーーーちょっと考え中ーーーーーーーーーーー
6話
あたしはYaco。
話を続けてみるね。
やっぱり遅刻した。
まあいいか。 たまにはね。
出だしが遅れたが会社では大したこともなかった。
そう、病気でもなかったみたい。
まったく。
物事は良い方に考えなくては。
あたしって調子いい。 もうわすれた。
何だか体の調子の方もいい。
マッシュは大人しくなっちゃったけど。
ガリガリのミイラになってしまったわけではなく・・・。
断じてあたしはバンパイアなんかじゃない。
大体、マッシュの生気を吸ったぐらいじゃ人の大きさの
バンパイアに足りるわけが無いじゃないの。
って知らないけど。
マッシュは貫禄が付いて動きにくくなって大人しくなった。
と言うことにしておこう。 あたしっていいかげん。
あたしは冷え性だったんだけど体質変わったかな?
熱っぽいようなんだけど怠いわけでないの。
体がぽかぽかとして軽い。
あっ。
お風呂に入ったからか。
あたしって莫迦みたい。
湯冷めしない内に寝よ。
マッシュも「おやすみ。」
______つづく_______
7話
Yacoぉ〜っ。 Yacoぉ〜っ。
春の日がぽかぽかと暖かい縁側でそよ風に
吹かれながらぼぉーとしているの。
お母さんが呼んでるのかな。
湿った土と、緑の匂いがする。 ん〜っ。
猫みたいにごろごろしているのって大好き。
Yacoぉ〜っ。
誰よあたしを呼ぶのは。
たまにはのんびりさせてよね。
Yacoぉ〜っ。
んとに。 誰よ。
もしかするとあたしはまだ夢の中?
おっと。
起きなければっ。
外が明るい。 もう11月も半ば。
それほど強くないけれど朝日が射し込んでいるわ。
「おはよ! マッシュ。」
なぜか、今日は元気に起きれた。
寝ているときに誰かがあたしを呼んでいたような気が
するのだけれど?
だからお母さんに呼ばれたような夢を見たのだと思うの。
内なる理性の声というものかしら。
それはともかく、今日は体調がいい感じ。
すっきりと起きることが出来たわ。
部屋の中には窓から流れ込んだ朝の空気に満ちているのだけど、
あたしは何だかぽっと暖かいの。
疲れもぜんぜん溜まっていないよ。
今日は自然にスマイル。
あたしってかあいいっ。 ・・・(^^ゞ
あたしったら朝からごきげん。
何だかプロポーションが良くなったみたい。
最近何だかきつ目だったお洋服がバッチリ。
とくに何もしてないのに。
あれっおしりが少し大きくなったかな。
うっ。 胸も少し大きくなったような。
成長してるのかな? ん〜っ?
まあ、悪いことではないわ。
朝ご飯もおいしく頂きました。
あっ。 あたし一人暮らしなんだけど
朝は和食派でちゃんと作って食べてるの。
こう見えても結構古風で家庭的なのだ。
化粧の乗りも良いし、ああっ。
あたしって、かあいいっ。
あたしが歯を磨いているときにそのかわいい声は
突然に聞こえてきた。
「Yacoっ。 Yacoっ。」
がはっげほっ。
あたしはむせた。
「なっ。 なによ!」
突然変な声が聞こえれば誰だってびっくりするわ。
しかも、耳元で・・・・。
「あっ・・・。 ごめん。」
消え入りそうな声。 かなり遠くで聞こえたような・・・・。
「Yacoっ。」
んっ。 マッシュが喋っているの?
ぴちゅ ぱさぱさぱさっ。
ちゃんっちゃんっ。
マッシュがかごの中を動く音。
_______つづく____________
8話
「やった。 やった。」
拙い感じだけど。 ちょっとうれしそう。
やっぱりマッシュの方から聞こえてくるの。
「だれっ? マッシュっ?」
「 マッシュっ! マッシュ〜?」
んっ 何だか自分でもあやふやみたいね。
「だれなの?」
ちょっとおびえているようだしかわいい声だったので
あたしはやさしく聞いてあげることにした。
「あの。 Yacoさん。 マッシュです。」
ちょっとアクセントがへ〜ん。
でもかわいい。
「マッシュってインコの?」
洗面所で話しているのにこんな事聞くあたしもへん。
順応性が有りすぎるのかな。
事態をありのまま受け止めるのは得意だよ。
「マッシュです。 正確にはインコではありません。」
あっ。マッシュなんだ。でもマッシュはインコじゃない?
「マッシュだったらインコよ。」
「インコではないのです。 宇宙人です。」
インコ型宇宙人?
「あっ。 ちょっと待って」
会社に電話入れとかなきゃ。
あたしは一芝居打って会社を休むことにした。
ほんとは絶好調なんだけど。
だって、「空耳が・・・。」とか宇宙人が家にいるので
とか言えないじゃない。
「それで それでっ?」
あたしはかごの側まで行ってマッシュの話を聞くことにした。
______つづく________
9話
「Yaco。」
マッシュの側に行っても宇宙人とは思えない。
どう見てもただのセキセイインコ。
「とても宇宙人だと思えないけど?」
「そう。 Yacoの目の前にいるのはただのインコ。」
「えっ。」
なにそれ。 マッシュの方から声は聞こえてるんだけど。
たしかに、マッシュは喋っている様子ではない。
???? 頭の中で考えがぐるぐる回った。
「混乱させて済みませんっ。 Yaco。」
「あっ。 もしかして幽霊?」
「Yacoの想像するような者では有りません。
わたしたちはまだ死んでいない。」
「じゃ生き霊だ。」
「Yaco。 体から遊離して活動しているわけでは
有りません。」
う〜ん。やっぱり幽霊らしくない。
何だかしゃべり方が自然ではないし。
幽霊なんか出てくるのがそもそも自然では無いの
だけれど。
それに、マッシュと名のる宇宙人だか、幽霊だかは、
わたしたちと言った。
「え゛ もしかして何人かいるの?」
「人では無いので何人と数えません。」
「あっいるんだぁ〜。
ひょっとしてうじゃうじゃ居たりしてぇ。」
「うじゃうじゃ・・・・・・。」
げっ。 困っているみたい。
冗談で言ったら当たってるの?
地球を侵略しにきたのかしら。
どうすればいいの? なんで、あたしのところ
なんかに!
「Yaco。 心配しないでください。」
なぁ〜んだ。
心配しなくていいんだ。
あたしはほっとした。
ってかぁ あたしってほんと単純。
なんだか、全然マッシュの事を疑っていない。
「でも、どういうことなの?」
疑問はまったく解消されていないのよね。
_______つづく___________
10話
宇宙人がいるとしたら、沢山いて当然ね。
自分の星に帰ればの話なんだわ。
とあたしは勝手に納得する。
「何から聞きたいですか。 Yaco。
あなたは混乱している。」
ちょっと急いで色々聞きすぎたかしら。
これはまずあたしが納得でき無ければ。
収集が付かないわ・・・・。
と言うことで聞いた話をまとめるね。
宇宙人はマッシュと言う代表が喋っているらしいの
すぐ近くにたくさんの仲間がいるんだって。
マッシュはセキセイインコの名前に由来するもので
なんと宇宙人同士では名前というものがないらしいの。
十数日前奇妙な流れ星が見えた日に地球に辿り着いたん
だって。
あの流れ星が宇宙船で少し離れた空き地に降りたらしい。
「マッシュっ。 ところであんた、まだあたしに
隠していることが有るんじゃないの?」
「えっ・・・・。 どうして?
Yacoが疑問に思っていそうなこと。
Yacoの質問には答えたよ。」
「あたしが気になるのは姿が見えないことなの。
何かあるからなんでしょ。 そんなに隠れてばかり。
出ていらっしゃいよ。」
とっても怖かったらどうしようと一瞬後悔したけどね。
たとえばマムシみたいな顔とか、蜘蛛みたいとか。
不気味な姿をしていたらイヤだけど。
やっぱり、言ってしまった。
「・・・・・・・。」
あたしの嫌いな沈黙が訪れた・・・・。
_______つづく________
11話
Yacoです。 メールのヤコさんとは別人よ。
念のため。 (でも名前を頂いた、モデルです。 描けてないけど。)
あたしは黙っていられるのが嫌いだ。
だから自分から話しだしてしまう。
「あのっ。 マッシュ? どこかに行ってしまったの。
ごめん。 マッシュっ。姿を見せなくてもいいから。
マッシュっ。」
あたしには彼がいるのにマッシュがどこかに行ってしまうことに
不安を感じ耐えられなくなっている自分に気が付いた。
これって不思議よね。
身勝手というのかしら。
身近に優しい言葉を掛けてくれる人がほしいのかな。
一人にされたくないということもあるし。
たとえ相手が宇宙人であっても言葉を交わし、
通じ合うものが有ると、もう失いたくない。
マッシュ。
「Yaco。 どこかに行ってしまったりはしない。
Yacoとはいつでも話せるよ。」
なぜかうれしかったの。
「ほんと!」
「ほんとだよ。Yaco。」
これが宇宙人のテクノロジーなのかしら携帯が
無くてもいつでも話せる。
「それに。 Yaco。声に出さなくてもいいよ。
言葉を考えるだけでいいんだ。」
えっ。 それって超便利ぃ!
テレパシーというやつね。 さすが宇宙人は違う。
*そう。 便利でしょ Yaco。*
マッシュの言葉が直接響いてきた。
________つづくと思います。_________
12話
やっぱり超能力というのは有るのかしら?
現に宇宙人がテレパシーであたしに話しかけている。
でも、マッシュって宇宙人ぽくない。
やっぱ宇宙人と言えば円盤形の巨大宇宙船で降りてきて
まず音階で通信して投光器でチカチカと合図したりして。
ん〜っ 単に「未知との遭遇」なだけ?
*そんな 宇宙船には乗って来なかったよ。Yaco。*
あっそうなんだ。マッシュの送ってきたイメージによると
乗ってきた宇宙船は典型的な巻き貝と言う感じ。
ほら砂浜に良く落ちている貝殻。
内唇がしっかりめくれて、軸唇が延びたものね。
アクキガイという貝の仲間に似ているのよ。
あまり人工物の感じがしない。
でっ。 今は空き地にあるの?
*そう言うこと〜*
なんだかマッシュの言葉遣いが馴れ馴れしく
なってきた気がする。
*Yacoさんから言語要素を吸収しているからね*
なによ。 あたしが粗野で馴れ馴れしいとでも言うの。
*親しみやすくていいキャラですよ*
ちょっとボキャも増えてきたかな。
大したものね。
あたしが喋ったり考えたりしない言葉も使えるのね。
え゛〜っ ちょっとそれってあたしの記憶から引っ張り出している
と言うことなのぉ〜っ
*その通りです。*
かぁ〜 どうしたらいいの。
*興奮しないで・・・*
でもぉ〜っ
*Yaco。 我々の生態は人間と全く違います。
理解できないことも多いし・・・。
恥ずかしがらないでください。*
なんでこんな当たり前(?)の事に
気付かなかったのかしら。
テレパスなら全てを知られてしまうのだわ。
え〜んっ。
なんでこんな普通の女の子の頭の中をのぞいたり
するわけ〜っ!
________つづいてます。______
13話
*Yaco。 落ち着いて。
このことは誰にも知られていません。
あなたの記憶や思考が公にならないように
我々の存在も他に知られることは無いのです。
Yaco。 あなたが喋らない限り。*
なっなによ。 それって脅迫?
秘密の内に地球を侵略するつもりなの?
そっちがそのつもりなら、何をされても
みんなに見せられても喋っちゃうから。
*Yaco。 侵略なんて考えもしていないよ。
心配しなくても大丈夫。
私達は宇宙を漂流していてたまたま
辿り着いただけなのです。*
ふぅん〜。 漂流ね。
流れ者かものかぁ〜。
やっぱ 悪ものだ。
*なんでそうなるんですかっ。*
だってバーのカウンターでバーボンを頼んだ後、
揉め事を起こして喧嘩するのが定番なんだぁもんっ。
*ちょっと〜ぉ アメリカ西部とちゃうんですから〜ぁ*
やーい ならず者ぉ
*えーっ なまずものてっ黒くて髭はやしてにゅるっとしてて。*
そうそう 黒くって髭はやしてて
テンガロンハットかぶったなまずって〜
ああーっ ほらあそこの看板に書いてある。
*どれどれ・・・・って
なんやねんっ! なんやねんそれは。
ちゃうやろがぁ〜っ
なんの話してるねんっ。*
マッシュも結構乗りやすい。
*場ぁを和ませようとしとるんやないかぁ〜い*
えぇかげんにせいっ。
*こりゃ 失礼しました〜ぁ*
_______つづきますね__________
14話
えぇーい。
一体あたしは何をしているの。
視ている人がいれば展開される異様な光景に
とっくに精神病院に送り込まれる所よ。
一人で声も出さずにぼけとつっこみやっているんだから。
「なんなのよおぉ。」
と思わず口にしてしまった。
*気は紛れたようですね。 Yaco。*
ええ。 おかげさまですっかりぃ〜。
って。 ちょっとぉ〜っ。 誰のせいで
この平凡な女の子がこんなに考えてると
思っているのぉっ!
マッシュぅ〜。
あたしってばやっぱりへん。
この混乱した異様な状況を楽しんで
しまっているわ。
へんよ〜っ
やっぱり変。
仕事中にマッシュがテレパシーで話し
掛けてきたりして、それでその話が
面白くてリアクションしてしまったら。
そこら中でなんと言われるか。
頭が変になったなんて思われたら
辞めさせられてしまうわ。
*あ〜 それは大変だね。 Yaco。*
莫迦。 マッシュ。
他人事だと思って。 お気楽なんだから。
莫迦。
_______つづく?_________
15話
病院に行って精神科に掛かった方が良いのかしら。
大体、宇宙人に思いやりを求める方がおかしいのよね。
ああっ。
*Yaco。 あなたは精神的におかしな所は有りません。
健康状態は極めて良好。 体調の変化は有りません。
ホルモンバランス通常値内。 有害物摂取許容範囲内。
Yaco。 思いやり判ります。
私達はYacoの事を大切に思っています。
Yacoの社会生活を乱すようなことはしません。
安心してください。*
何だか体がほんのり暖かくなりマッシュの心が
伝わってくるような気がしたの。
でも、どうしてマッシュにあたしの体のことが判るのよ!
大体あなたがあたしに何をしてくれたというの?
テレパシーで混乱させるだけさせて置いて・・・。
なんなのよ。
何だかマッシュに当たり散らしたくなったのよね。
(それでもマッシュは何でも許してくれそうな
気がした。)
でも許すのは。
最後に許すのは女の方なのよね。
いつもね・・・。
________________つづく_________________________
16話
本当にあたしは許すことになった。
なによ。
そうよ。 女が許すものと言ったらそう。
体よ。 体。
ひぇ〜っ。 宇宙人と!って
げすな勘ぐりをしないで。
でっでも。
マッシュとはもう一心同体。
プラトニックな関係のつもりだったのに。
あっあたしは〜っ。
なんとマッシュに犯され・・・。
もといっ。 汚染されてしまったのだ。
*汚染だなんて失礼な。
Yacoと同棲しているだけじゃ・・・
違う違う〜っ。
共生しているだけじゃないですか。*
へ〜っ。
共生って言うんだ。
そんな言葉よくあたしの頭から見つけてきたね。
*なかなか大変でしたよ。
全く整理されていないんだから・・・。
つまり、私達は宇宙人ですが、
その大きさが細菌ほどしかないのです。
Yacoのお腹の中にも大腸菌などが
ごまんといますが同じ様な大きさなのです。*
あたしと話しているのもテレパシーではないのね。
*そうです。 先ほども話したようにあなたの頭に
直接の神経伝達として話しかけているのです。
私達はYacoの頭部にいます。
ただ免疫、代謝から全ての機構はコントロール
しています。*
あたしは一瞬しびれるような虚脱感を味わった。
それってとってもアブナイ事よ。
ほんとうに、あたしはマッシュのされるがままに
なってしまう。
*安心してください。 私達は基本的に不必要な
コントロールをしません。
宿主の為すがままです。
元の星では宿主と話したことなど無かったのですが。*
あたしが見ているもの考えていること全てが
マッシュにもわかるのね。
*そう。 一心同体ですね。*
________________つづく_________________________
17話
あたしはマッシュと出会ったけど
何事もなかったように会社に出て
普通のOL生活を復活させていた。
あたしはYaco。
そう、結局会社を休んだのも1日だけ。
宇宙人との出会いは当然、誰にも話していない。
だって彼にも話せないんだもの。
両親にも話すわけがない。
マッシュと話すことは出来るのだが
日常生活が特に変わることはない。
あたしもそう割り切っていたのよ。
だけど周りの見る目がちょっと変わったことに
気付いたの。
あたしの外見が変わってしまったらしい。
同僚には別人と言われてしまった。
何処か凄くいいエステがあるのと聞かれたわ。
恋してるのと言って誤魔化したけど。
やっぱりお肌は大事よね。
マッシュのおかげであたしのシミ
そばかす、にきび、吹き出物の類は
一切消えてしまったの。
あまりの肌の美しさのために会社では
あたしの周りにソフトフォーカスが
掛かっているとかいわれたし。
そのまま天に昇って行きそうとも言われたわ。
あたしって天女? かぐや姫かな?
とにかくあたしにはエステと言う言葉は
無くなったわ。
エステよ、さよなら。
________________つづく_________________________
18話
マッシュを宿したあたし。
こんな風に言うと何だかマッシュは
あたしの赤ちゃんの様に聞こえるけど違うの。
マッシュは宇宙人。
お腹の中ではなく頭の中にいるの。
想像上の存在ではないわよ。
別にエイリアンの様に中から食べられている
訳ではないのだけれど、細菌のように
あたしに入り込み一緒に暮らしているの。
どうやら、セキセイインコのマッシュが
連れてきたらしい。
今は全てがあたしの中。
いつも一緒だけれどマッシュはあまり
しゃべり掛けてこない。
こんな風に考えているのも全てお見通しの
筈なのだけれど。
*Yaco。*
おっ。 珍しくマッシュが喋り掛けてきた。
仕事中なのだがあたしはちょっとうれしい。
何? マッシュ。
*まったく。 地球人の心理は複雑ですね。
ところで、Yacoさんの細胞で面白い
物を作ってみました。*
マッシュって宇宙人だから、何だかとんでも
無いところで気持ちにすれ違いを起こして
大変なことになりそうで怖い。
マッシュは何をしたのだろう・・・・・。
________________つづく_____________________
19話
あたしの心配をよそにマッシュの
うれしそうな気持ちが伝わってくる。
*ちょっと試して貰いたいんだ。
Yaco。*
何よ。 マッシュ。
何だかうれしそうね。
*そうなんだ。 面白いよ。
まず、そこの帳簿の数字を追いかけながら
電卓を操作する気分で考えて欲しいんだ*
なにそれ。
え〜っ
12350 たす。
3050 たす。
14500たす。
450 は。
! =30350=
おっ。 おおっ!
何だか勝手に答えを思いつくことが
出来るっ!
あたしは暗算が不得意だったのに〜っ。
* 面白いでしょう。 Yaco。
脳の使われていない細胞を使って
電卓回路を組んだんだよ。*
すっご〜いっ。 うれしい〜っ。
けどマッシュ!
ちょっとあんたぁーっ。
人の体で何やってるのよぉ〜っ。
あたしは突然席を立って、大声で叫びそうになった。
しかし慣れは恐ろしい。
それからのあたしはマッシュのおかげで
ちょ〜っ高機能な女になっていった。
______大丈夫でしょうか_______
20話
えっと。
具体的に何が出来るようになったか、
ちょっと話してみよっか。
聞いて驚くなぁ!
両手で同時にスラスラと手紙が書けるの。
これはひとえにマッシュのコントロールに
因る物なんだけど勝手に自分の腕が動いて
両方とも綺麗な字をスラスラ書き始めるのは
とても、気持ちが悪い。
マッシュはとっても細かくコントロール
してくれるのであたしの腕は定規が無くても
まっすぐな線が引けるし角度も正確に取れるので
製図が出来てしまう。
何て事なの!
あたしは機械か?
マッシュの玩具か?
でもマッシュは新しい玩具を買って貰った
子供のようなはしゃぎ様であたしに色々なことを
してくれる。 ちょっと怖いけど。
*Yaco。君は素晴らしい運動神経を手に入れたよ
新体操も床運動もオリンピック選手並にこなせる。
バク転、バク宙もお手の物だよ。*
マッシュはあたしに体操クラブに行って見ろと
仕切に進めてくれる。
確かにあたしは逆立ちなんかが簡単に出来るように
なっていた。
_____ちょっと方向がちがうけど_______
21話
体が軽いと気分も明るく
心も軽くなる。
優しい気持ちになれるわ。
その気持ちとはうらはらにあたしの
肉体はゼイニクをそぎ落として
シャープになっていた。
飼い猫だったあたしは少し野性味を
帯びて山猫になった感じ。
視力も回復して眼鏡もさよなら。
嗅覚も聴覚も鋭くなったみたい。
ひそひそ話も良く聞こえる地獄耳よ。
近くにいる人が汗をかくのも匂いで
判るくらい。
あたしは犬にでもなった気分。
マッシュのせいに違い無いわ。
*はっはっはっ。 当然ばれてますよね。
いやいや。 調節してみると以外に
面白くて*
こら! 人の体を玩具にするな。
*玩具だなんてとんでも無い。大事な
研究なのです。 共生していくためには
色々知っておかなければならないのですよ。
我々も命が掛かっているのです*
それってあたしの命もかかっているということ?
*あっ。 Yacoさんは心配しなくても
大丈夫。 総力を結集しています。
情報収集もほぼ完了して、
コントロールは完璧です。
気分はいいでしょ。*
そりゃそうだけど。
_____特別にすぐ次に_____
22話
あたしはYaco。
しがないOL。
この言葉も死語になりつつある。
仕事はやり甲斐があるし結構忙しい。
晴れ渡った空には雲が無く放射冷却で身を切る
ような空気が朝の都会にも満ちていた。
足早に会社、学校に向かう人たちの息は白い。
道路の向こう側にはランドセルを背負った小学生が
歩いている。
北風が吹いたときその列の中から1枚の紙が吹き飛ばされた。
その紙を追って小学生の一人が車道にでた。
道は普段車が少なく問題は無いはずだった。
だが、あたしは既に近づく乗用車の走行音を捉えていた。
暴走族か? キチガイじみた速度で走っていることを
エンジン音が伝える。
このタイミングは。
あたしは既に小学生に向かって走り出していた。
小学生が紙を手に取り車に気が付いた瞬間に
緩やかなカーブから飛び出した車はもう避けきれない
距離に突っ込んでいた。
あたしは小学生を抱えて全力で跳躍した。
わずかに足らずあたしのくるぶしは車に捉えられ
したたかボンネットに腰を打ち付けられる。
小学生を潰さないようにかばいフロントガラスを
割りながら車の上を転がる。
*Yacoぉっ。 右足受傷*
屋根から転がり落ちるときに転がり落ちる寸前に
あたしは体をひねって左足から着地。
幸いなことに車が進む先に人はいない。
前を見ることも出来ずブレーキも間に合わない車は
電柱に激突して大破した。
おそらく中の人間は助からないだろう。
あたしは右足をかばいながら小学生を列に戻し
きびすをかえした。
「おねえちゃん。」
あたしは声を無視し、出来るだけ急いでその場を
離れるよう動く。
*神経ブロックしている。 右足くるぶし粉砕骨折。
左肘、肋骨にひび。*
やっぱり。
マッシュが急速に治療しているのも判ってるわ。
*無茶をしたね。*
あたしのわがままだろうか。
あたしが小学生の死を目撃したくなかった
だけなのかもしれない。
何事も無かったように会社には仕事があった。
あたしも何事もなかったように仕事をはじめた。
____なるべく休まず続けます____
23話
今日も満員電車に揺られて帰宅よ。
これだから都心の会社はイヤなのよね。
と言っても今の会社を辞める気は
更々ないわよ。
あたしはYaco。
凸凹出版に勤めているんだけど、
都心からは少し離れて住んでいるあたし。
まあ、ほとんどの人が同じように遠くから
通勤しているのだろう。
あたしはまだ恵まれているのかも知れない。
電車の混雑はどうしようもない。
観念して乗っているけど息苦しいし、
ヘッドホンから漏れる音がうるさかったり
イヤな物ね。
携帯電話も。
最近は混雑した電車の中では携帯電話を
使わないように呼びかけているのでは無いの?
早速、近くの中高生ぐらいの女の子の携帯がなって
話し始める。
まったく。
ちょっと悪戯したくなる。
マッシュ!
*了解 Yaco。*
マッシュはあたしの体の中に電波を受発信出来る
器官を作り出しちゃったのよね。
その時の話はまたあとで。
あたしは電話無しに通話が出来るのよ。
そのうえ、ちょっと変わったことも
出来るようになったの。
目的の携帯電話の基地局とのやり取りを捉えて
割り込み。 デジタルでも大丈夫。 解析済みよ。
”「もしもし、もしもし。 あれ変ねえ。
あなたは誰?」”
「やだぁ〜。なんかへ〜ん」
ヤマンバも混信に気が付いたようね。
”「あ〜っ 電車に乗っているんでしょ。
いけないんだ。」”
「あ〜っ。 もしもしぃ〜。 なんかぁ。
変な声がぁ 混じってきてるのぉ あとで
かけるからさ。 ん。 それじゃね。」
ぴっ。 ヤマンバはすぐに電話を切ってくれた。
これぐらいはしないとね。
____またね。____
24話
近頃、トラブルへの嗅覚が良くなったの。
これは機能的な嗅覚のせいでは決してないわ。
確かに道行く人の体臭で調子や心理状態まで
判るようになった影響も否定は出来ないけど。
雰囲気が判るようになったと言うべきね。
何だかそんな物をあたしも見たいと思って
いるのかしら?
あたしはYaco。
凸凹出版に勤めているんだけど、
都心からは少し離れて住んでいるあたし。
まあ、ほとんどの人が同じように遠くから
通勤しているのだろう。
あたしはまだ恵まれているのかも知れない。
ベッドタウンの住みかに一人急ぐあたし。
何だか寂しい。
こんな所で育った子供も暇なのよねきっと。。
暴走族や非行に走るのもいると聞くわ。
いきなり、トラブルの香り。
超敏感なあたしの聴覚によると誰か
袋にされようとしている様子。
いえ違うわ。
血の匂いがする。
既に誰かが倒れている。
人数は3〜4。
あたしが道から外れた空き地に
入っていくと4人の16から20歳程度の
ガキが立っていた。
結構体格がいい。
へたり込んでいるのも
大方仲間だったはずよね。
でも、ほっておけば加減を知らない
ガキの中で人死にが出るのはほぼ
間違いが無さそう。
やっぱり金属バットを持ち出している。
なんだか定番ね。
「あんた達! 何やってるの!」
ちょっと迫力無かったかな。
ガキ共も少しぎょっとしたようだけど。
「なんだ、ね〜ちゃんか。」
「丁度いいや、まわしちまおうぜ。」
端のやつが無造作に掴みかかってくる。
まったく。
あたしは腕をかわしながら半歩踏みだして
間抜け面の目に裏拳を当てた。
視界を失って泳ぐあごに脚のバネも使って
拳を叩き込んでKOよ。
なめるんじゃないわ。
さらに半歩背を向けながら肘打ち。
一人。
「こいつぅ。」
既に一歩踏み出すやつがいる。
反応がいい。
そいつに一歩踏み出しながら背を
向ける。 またしても掴みかかって
くるところを中段回し蹴り。
レバーに入った。
頭が下がってくるところへ肘打ち
二人。
バットを使うことを決めて
振り上げながら踏み込んでくる。
あたしは斜めに踏み出してかわしながら
振り下ろされる腕を柔軟性を生かして
蹴り上げた。 ぼき。
男の腕が気持ちの悪い音をたてた。
「ぐっ」 男は激痛に倒れた。
三人。
ナイフを持っている!
振り回さずに低く構えて踏み込んでくる。
あたしは手首を蹴り上げた。
ナイフは弾かれ。2段蹴りが相手の
顔面を捉え鼻がぐしゃりとひしゃげた。
四人
さてあたしが命を救ったガキは・・・。
ん〜っ。 やっと生きてるという感じね。
彼を手早く担いでその場をとにかく離れる。
このベッドタウンは開発が途中で止まり
空き地もあるし、結構自然も残っているの。
血があたしの服にも浸みた。
暖かい。
この量は少し拙い。
適当な茂みに彼を横たえる。
人目に付かないようにしてこの場で手当を
始めるしかないようね。
バットで頭を殴られたようね。
顔にも当たっている。
左の眼球はどうやら破裂しているわ。
こんな状態の人間にまだ蹴りを入れていたらしい。
どう? マッシュ。
*滅菌処置を行い マイクロオペレーションを開始します。
全ての処置に30分弱かかります。不可逆損傷を
出来る限り減らしましょう。 Yaco。*
損傷部に軽く手を当てる。
あたしの体細胞が微細な触手となって彼の体内に侵入を開始した。
傷口からあふれる血液も全てを回収する。
細胞が混ざってしまうわね。
*Yaco。 彼の体内に我々の痕跡を残すことは出来ません。
彼の細胞は取り込みますがDNA操作した細胞は一つも残すことは
出来ないのです。*
服が汚れてしまったわ。
*こんな事をして汚れないとでも思いましたか。*
でもね。
冬の服は後が大変なのよね。
この服は捨てるしかないかしら。
*Yaco。 自分でクリーニングできますよ。*
そういう事ね。
あたしの背中から舌のような突起が伸び始めた。
うふっ少しくすぐったい。
襟元から出たそれは膜のようになって血糊の付いて部分を
覆った。 すぐに酵素を出して分解し吸収し始めた。
淡いピンク色をしてショールの様。
これも養分として使えるの。 経済的ね。
マッシュあたしの気まぐれにつき合ってくれて有り難う。
それから30分後、彼が意識を取り戻す前にYacoは家路についた。
________________
25話
満月の晩
気持ちはざわざわと波立つ。
彼の居ない今。
ふと、空白になった夜。
部屋の明かりを消して、高校の時から
使っているデスクにセットのイスに
座ってぼぉっとしていると、
優しく青い光が射し込んでいる。
季節は冬
部屋の空気も清として澄み切っていた。
片隅の鳥かごではセキセイインコのマッシュが
羽毛を膨らませて丸くなっている。
じっじっ。
寝言なのか暗がりで鳴く。
得体の知れない焦燥感がごりごりと音をたてた。
Yacoは立ち上がり窓の前に立つと
開けはなった。
更に冷ややかな空気が部屋になだれ込んだ。
ロングスカートにブラウス、カーディガンに裸足でも
寒くは無かった。
スッ。
布のすれる音。
ロングスカートは床にわだかまった。
白い薄衣を脱ぎ捨てYacoの黒い茂みは
月光に露わになった。
カーディガン、ブラウスの下にはプラを
付けていなかった。 釣り鐘型の乳房が
現れた。
雲一つない空には星々が輝き、月の光に
Yacoの裸体も青白く浮かび上がった。
とっ。
突然窓に向かって吸い込まれるように
体を踊らせる。
上半身をひねって腕を伸ばし、ひさしをつかんで
体をひいて投げるように持ち上げる。
滑らかな動作に微塵の無駄もない。
白い雌鹿の美しいつま先は既にひさしに
掛かっていた。
乳房が揺れ、引き締まった足首から脹ら脛
、太もも、臀筋、背筋をバネのように撓ませて
跳躍する。
あっという間に夜空が全天に広がる。
くわっ。
Yacoは腕を広げて大きく息を吸った。
触れば吸い付きそうな滑らかで白い肌。
肩甲骨の間に現れた突起はその弾力を
試すかのように柔らかい皮膚を
引き延ばしたと見る間に綻びを作り
ざっと音をたてた。
次の瞬間には巨大な純白の翼がたおやかな
背中に現れていた。
内部構造を変化させたため身体は一回り
小さくなった。 骨は恐らくハニカム構造
となって翼にも十分な骨組織を行き渡ら
せたのだろう。
全身は羽毛に覆われている。
全ては天空を翔為に。
軽く跳躍すると満月に向かって飛び立った。
________________
26話
「おねーちゃんっ」
この前助けた小学生の声。
Yacoは理解していた。
少し前からこの辺りを数人の
男達が調べ廻っていることを。
助けた小学生がその男達に監視
されていることも。
誰が小学生を救い、ドライバーを
殺したか。
姿をさらすことは出来ない。
監視者の位置も正確に把握している。
チューニングされた聴覚は20m離れて
交わされた小声の会話も聞き逃さなかった。
写真は撮られていない。
男達の誰にも顔をハッキリと見られていないのも
判っている。
〜おい〜 〜職務質問だ。〜
配置は完璧ではない。
道を渡ってくる2人の男の声と足音を
感じ取る。
あまり不自然にならない程度に足早に
横道に逸れて追跡をかわした。
〜逃げられた〜 〜気付かれていたのか?〜
〜やはり、女性なのでしょうか?〜
___________________
27話
「あっ!」
Yacoの握っていたお気に入りの携帯は
瞬時に消滅した。
すこし違った。
正確にはYacoの腕の中に飲み込まれたのだ。
タマゴを飲み込んだヘビの様に少し膨らんだYacoの腕
色白の滑らかな肌のふくらみは微かに妖艶さを漂わせていた。
しかし、携帯電話の形はあっという間になくなり
リチュームイオン電池、コンデンサ、抵抗、トランジスタ。
集積回路。
高周波発信回路がYacoの体内で急速に生体再構築に移行した。
「マッ・・・」
何をするのよ! いらだちと軽い怒りでYacoは一瞬声をあげた。
マッシュっなんのつもりなのよ。
いたずらは止めてちょうだい。
*Yaco。 悪戯では無い。 もう少し待って欲しい。
すぐ返す。*
返すって・・・。
マッシュっ。 携帯電話っ あたしの体の中で溶かして
しまったでしょ!
*察しがいいね。 Yaco。 全ての情報は保存しているが
物体としては原子、分子レベルまで分解させて貰った。*
なっ。
なによ! そんなのでどうやって返してくれるって言うの。
マッシュのバカ。
だいたいね。 携帯電話なんか食べたら体に良くない物が
いい〜っぱい入ってるでしょっ。
*バカ呼ばわりは酷いな。 Yaco。 しかし、Yacoの
言うとおり。 生体に有害な物質の取扱いには注意を要する。
だが大丈夫。 人間という生物は良くできている。
貯蔵や使用方法は確立できた。 まもなく再構築にかかる。*
「えっ。」
今度は逆回しのフィルムでも見ているようだが、速度が違っていた。
既に携帯電話はYacoの手に戻っていた。 体内にあった痕跡は
微塵もない。
*Yaco その機械が無くても通信が出来るようになった。
だが手元に無ければ怪しまれる。*
まっマジックショーみたいね。
でもね、電話機無しで喋っていたら変に思われて当然じゃない?
*その通りだ。 だが、声に出さなくても通話出来るのだ。
自分の喋る言葉を思い浮かべていけば相手の電話に発声できる。
少し慣れが必要かも知れないが、高速度の思考などは遮断されて
伝わることはない。 もっとも、そのまま音声に変えても画像など
が混ざっているし可聴閾は越えてしまうだろう。*
ああっ・・・。
何だか良くわからないけど。
宇宙人と出会うってこういう事なのね。
自分で言うのもなんだけどあたしも何だか化け物じみてきたような。
このまま普通の生活に’さよなら’しなければならないことに
なったらどうしよう。
*・・・・・。*
_______________________________________________________
28話
月の光が冴え冴えと凍り付く夜に、
白い翼を持った天使が森に降り立った。
やがて天使は月の光に浮かび上がる様な、
少女に姿を変えたが、
森で一番大きくて年寄りの樹に、
滲むように消えていった。
さらさらさらさらは水の音。
樹は大地から水を吸い上げて生きている。
Yacoは、
大地と一体となった樹の胎内に
胎児の様に丸まっていた。
この世に変わらない物は有るのだろうか?
この樹は、
3千年の長きに渡り森を見つめてきた。
樹は大きくなり、
樹の周りでは様々な動物の営みが繰り返された。
変わっていく、
時の流れに速さこそ違うが、
この世に変わらない物は無い。
あたしも変わってしまった?
心も体も。
*Yaco Yaco。 きみは・・・、
戻りたいのか?*
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29話
静かに雪が降っていました。
一頭の子鹿が振り払うのも面倒なのか、被った雪も
そのままに森を往きます。
群れからはぐれたのでしょうか。
母の元に返っていくのでしょうか。
それとも母を捜して遣ってきたのでしょうか。
そんな子鹿も森で一番年老いた杉はただ見守ります。
その杉の傍らにYacoも子鹿を見つめていました。
Yacoの髪は杉の葉のように深い緑色が更に深く
光を呼吸していました。 重厚な樹皮がしかし、
しなやかに、Yacoの全身を覆って居りました。
Yacoは一回りも大きくなり杉の樹その物の姿に
為っていましたが、優しげな曲線を帯びておりました。
静かにYacoが右手を差し出すと、子鹿は警戒しながらも
吸い寄せられるようにYacoの元に遣ってきました。
そして、子鹿はYacoの指をかじって飢えをしのぐと
歩み去っていきました。
雪はまだ降っていました。
少ない光が更に弱まっていく中にウサギが遣ってきました。
かなり大きなそのウサギは母ウサギなのでしょうか。
ウサギは付け狙う天敵から必死に逃れてきたのでしょう。
酷い傷を負っていました。
折角、逃れてきたものの力尽きたのかやがて動かなくなって
しまいました。
Yacoはその亡骸をそっと拾い上げて抱きしめました。
30分も経ったでしょうか。
ウサギは鼻をヒクヒクと動かして辺りの臭いを嗅いでいるようでした。
ぱっと後足を使ってYacoの腕から飛び出すと
もう暗くなり始めた森を、子供が待っているのでしょうか?
走り去っていきました。
Yacoにも雪が積もっていました。
ただ、Yacoは若木のように立ち尽くしていました。
* Yaco。 それとも・・・・。
それとも君は・・・・。 戻りたくないのかい。 *
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30話
「大澤君」
「何でしょうか部長」
「君が特命事項を受けていることは承知している。
しかし、所轄の手続きの邪魔をするのは止めて貰えないか。
私には上層部が何を考えているのか判らないが警察にも
手続きという物が有るのだよ。
処理すべき事は遅滞なく処理しなければならない。
大澤君。
君は何をしようというのかね。」
「本多さん。
特命事項なんです。
ご迷惑をお掛けしているのは承知しています。
申し訳なく思っています。
今言えることは犯罪の質が変わってしまいそうな事態に
備えていると言うことです・・・。
通常の警察では対応できないことが起こるかも知れないのですよ!」
「もう、何も聞かないことにするよ。
大澤君。
協力はしよう。
通常の警察にも遣らなければいけないことが有ることだけ忘れないで
貰おう。
やはり上層部は何を考えているのかわからん。」
森はまだ厚い雲に覆われていました。
やがて、ぽつりぽつりと雨が降ってきました。
まだ残る雪もゆっくりと解けていくでしょう。
しずくが、小さな流れにしたたっていました。
雷鳴が彼方に。
「戻る・・・・。」
若木が呟きました。
雨がすこし強くなった時・・・・。
そこには、純白の翼を持つ者が現れました。
翼はふくろう。 知性と静寂の翼。
大地を蹴る脚は鹿。
左手は熊。 滑らかな蛇は腹部に。
ヤギの角。
ウサギのしっぽ。
マッシュ。 これはキメラね。
*神話のキメラとは少し違うけど。
Yacoの遊び心が有れば色々なことが出来る。
遺伝子をたっぷり集めることができたのも嬉しいよ。*
人の社会に戻るわ。 マッシュ。
雷鳴が轟き。 森が閃光に輝いた時。
Yacoは大空を舞っていた。
帯電したその体は青白い光を放っていた。
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31話
酷い嵐だった。
一羽の大鷲がその嵐を飛んでいた。
通常の野生動物が嵐の中を行動したりすることは無い。
帯電した大鷲は青白く淡い光を放っていた。
住みかに戻るYacoであった。
マッシュ。
どうしてDNAを集めているの?
*Yaco。 遺産を集めているのだよ。
我々が地球に来たのはこれが始めてでは無い。
この星で言う何百年か昔。*
*黒い森の奥にある貴族の城に我々の先駆者は降り立った。
城主の彼は知的で占星術を修めていた。
先駆者にも好意的で星々の海に大変な興味を示した。*
*だが我々の形態は彼以外には理解されなかった。
彼は貴族で有りながら魔道の者と汚名を
着せられることになった。*
*統治者である彼は自分の身の安全と権力を
保持するために恐怖政治を布くしか道が無かった。*
*しかし、我々の先駆者は彼と協力して研究を進めた。
彼を補佐して・・・。 先駆者は滅んでしまった。
だが、研究成果はDNAに書き込まれ遺産として
この地球に残っているのだ。*
*彼も伝説の存在となったが、DNAは受け継がれていた。*
轟音と共に稲妻が暗雲を渡る。
雷光は雲までを輝かせた。
いよいよ青白い輝きを増した大鷲は2つの心を秘めて
嵐の空に舞う。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
32話
*人のDNAの中には相当な量の無駄な情報が含まれているという説が
あった。 先駆者の研究成果を想像することも出来ない者にとって、
全く無意味な情報だろう。*
不可視な宇宙人マッシュの言う先駆者のプロテクトもしかし、
完璧ではなかった。
DNAの組み変わりはウィルスなどによっても起こるのである。
様々な切っ掛けによってDNA機能を発動する者が長い年月の間に
現れ始めた。
精神統一によるホルモン周期変調、呪文の言語周波で変調した重力波、
エーテル波によって己や他者のDNAプロテクトを解除し機能を
コントロールするものが現れた。
伝説にはある。
かつて、先駆者と彼は当然のごとく人のDNAばかりを
研究していたのではなかった。
彼は己の権力維持のため様々なモンスターを生み出し山野に放ち
配下とした。
一方で先駆者はコントロールシステムを彼の手に委ねるとともに
密かにバックアップを放出していた。 先駆者は彼に一つの星の
運命を決めさせようとは思わなかったのだ。
そのような意味ではプロテクトの不完全は先駆者の計画が完全で
あったと言うことなのかもしれない。
彼と同じ時代を生きた人々はどうだったのだろう。
彼の統治システムに先駆者の作った綻びで現れた人々は脆弱ではあったが
優秀であった。 全身全霊を傾けて先駆者の与えてくれたヒントを
理解し、独自の文化で体得し体系化し基盤を固めることに成功したようであった。
かくして、伝説の魔術世界が出現した。
モンスターと戦いながら先駆者のメッセージを理解できた者を人々は
魔術師と呼び尊敬と畏敬の念で迎えた。 時にはあの彼との繋がりを疑いながら。
そんな時代にYacoのはるか以前の祖である魔術師ヤークという者がいた。
あるとき、若き魔術師ヤークは久しぶりに纏まった仕事に有り付いて
昂揚感をじっくりと味わっていた。
後に東洋の果てまで渡ることになるヤークの子孫が誕生する以前。
これまで修行を積んでいたため未だ女性を抱いたことも無かった。
そんな若造なのだが村人は魔術師であることを知ると手厚くもてなした。
ヤークが火炎竜を一人で仕留めている事を知って村人たちは特に喜んだ。
金貨を出し合って早速ヤークに依頼してきた。
町に出なければ役に立たない金貨。
だが、村人たちは作物を時々遣ってくる商人に売って蓄えているのだ。
皮肉なことにその金貨はあの彼が発行するド・ラ・クール金貨であった。
もっとも純度が高く、信頼も高い。 魔力さえ秘めているのではと囁かれる。
これが、小国の主に過ぎないあの彼の美学なのだ。
列強の王族も慇懃無礼な彼の態度に一言も意見することが出来ない。
彼こそが帝王なのだ。 もちろん他国とて無力ではない。
微妙な力関係を彼はむしろ楽しんでいた。 ひなたを好まぬ暗黒の帝王であった。
そんなことには関係無く、ヤークはド・ラ・クール金貨をみて燃えた。
金貨自体が村人たちの堅実さを表していた。
仕事の場所近くまで来たとき、ヤークはこの地域を魔道士が訪れていることを知っ
た。
ド・ラ・クール金貨が流通していたのは偶然ではなかったようだ。
火炎竜は流れてきて棲み付いたのではない。
巧妙に緩やかな結界を張り巡らしている。 かなりの実力を持った魔道士だ。
まさか、あの彼がここに。 伝説の彼が来たのだろうか。
そんなことをヤークがチラッと考えたとき唐突に戦いが始まった。
ふいに後ろに飛び退る。
回避動作で血が逆流する。
緊急時に発動する加速術で身体の物理強度の限界近くで動作可能だ。
空間に湧くように火炎竜が現れ火を吹いた。
空間転移。 モンスターが単独で転移することは無い。
同時に土壁がヤークへの火炎攻撃を防いだ。
周囲の土中生物が超高速で吹き上げた土石が瞬時に土壁を作り上げたのだ。
的確な位置へ出現させるのは至難の術であるが、ヤークは見事に防御した。
予め土中生物を発動させていたのであろうが思惑通りの使い方ではないはずだ。
如何に優秀な術者といえど先制攻撃を受けてしまうのは絶対に避けなければ
ならない。 優秀な術者ほど先制攻撃は受けないものなのだ。
この火炎竜はどこか違う。
ヤークには容易い仕事であったはずが思わぬ苦戦を強いられている。
何人か殺られているのだろう。 土中生物を発動させるときに気づくべきだった。
繊細な結界に気を取られたのがまずかった。 近づいただけで感知されていたのだ。
ヤークはもっと恐ろしいことに既に気がついていた。
土壁の温度が上昇している。火炎竜の攻撃が長い。
どうやら、プラズマを吐いているようだ。
救いは境界線を越えて回り込んでくる様子が無いことだ。
へまをやらなければ撤退することは可能だろう。
しかし、ヤークは受けた仕事を済ませようとしていた。
「ウォッード・ル・ナソスサアーセスシエント・レーザラメル・・・・・・」
ヤークが胸の前でむかえ合わせた手のひらの空間に太陽のように
輝く光球が現れ辺りを照らし始めた。
バンッ バンッ 突然土壁が深くえぐれた。
光球からでた何かが土壁の一部を一瞬にして蒸発させたようだ。
ヤークは十分な気を込めるかのように一瞬の間を置いて一気に
左手に転がり出て両手で固定した光球を心持突き出した。
ダンッ何かが火炎竜の翼の付け根に当たったようだ。
さほど気にしないような火炎竜は火を吹くのはやめて舞い降りてきた。
そのとき「アッヌクースクェーイスムク・・」
超高速振動する地面が火炎竜を砕き始めた。
ミミズが時折、火炎竜の内臓のであるかのように土から飛び出し
飛び散った肉片に食らいついていた。
一定の範囲内の土中生物のDNAを起動し一瞬にしてモンスターに
変化させて攻撃させる。 ヤークの術があたった。
水の上に降りたように火炎竜は首だけを残して消えてしまった。
土中生物のえさになってしまったのだ。
ヤークは周囲に気を配りながら首に近づき、まだ動く首に
何事か唱え、静かにした後一部を切り取り村に戻ることにした。
地水火風雷冷治招、全ての術の根源は生物に有る。
周囲の生物(精霊の力)を起動しコントロールすることが術である。
波長を合わせ絞り込んだエネルギーは強大なレーザーパルスも
発生が可能なのである。
あの彼と先駆者の手によるものだ
自らの肉体も変化させる彼を人々はバンパイアと呼んだ。
究極の生物科学は彼の理想郷を築き上げ、彼に不老不死を与えた。
権力の維持と身の防衛のため術にすがるしかない彼が
バンパイアとなったのは当然の帰結であった。
彼が幸せであったのかは知らない。
彼が倦み始め・・・。
滅んでいったと、伝説には・・・・ある。
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33話
Yacoが自宅の屋根に降り立ったとき。
シャランシャランと乾いた音がした。
それは高密度なエネルギーが伝わっていく音であった。
突如、天空を切り裂いた雷はYacoを直撃した。
8千万ボルトの高電圧にYacoも消し飛んだと思われた。
しかし、変化を解いて激しい雨の水煙にたつ裸体には傷一つなかった。
吐く息は白い。
Yacoのぬくもりは湯気を立ち上らせていた。
Yacoが、つっと動いた。
不思議なことにピタリと閉じられていた窓はこれも不思議なことに
美しい獣が滑るように入り込んで来るのを歓迎するかのように受け入れた。
窓から濡れた体で部屋に入った。
しかし、床には一滴のしずくもこぼれることはなかった。
吸収したのだ。
Yacoは静かに衣服を整えた。
マッシュ。
*Yaco我々は先駆者以上の技術を手にした。
瞬間・高密度の電気エネルギーさえも生体で吸収することが出来る。*
また勝手に試したわね。 まったく疲れるわね。
*疲労などあり得ないのだが。*
気分の問題よ。
アールグレイのホットティーが疲れたときのYacoの定番だ。
部屋は全く変わりなかった。
紅茶をストレートで啜る。
セキセイインコのマッシュも健在で餌をついばむ。
くつろぎと共にいつもの生活が戻ってくる。 筈だった。
まったく突然、家が軋み始めた。
*重力系の術が掛けられた。 巨大重力に押し潰される。
座標を固定しているキーアイテムを空間転移させるしか解除方法はない。*
まったく。
何のつもりかしら。
う〜ん。 判らないのよ。 何を目標に重力波動を送り込んでいるの。
*解析中・・・。 あれだ*
えっ。 あれは・・・。
*極大波が来る。 空間転位の座標設定は間に合わない。*
あれはイギリスの・・・。
*彼は取り込まれたのかもしれない。 助かるかどうかは判らない。
このままでは、我々も滅んでしまう。*
「ヌゥマック サンマンドゥァラ バァザゥァラダン センドゥウア
マックァラシャドゥア スゥハッタヤ ウントゥァラタ クゥアン マン」
エーテル波動体のエネルギーを借りるわ。 コードは不動明王呪よ。
信仰の力ね。 重力波位相を変えて共振点を外すのよ。
* 固定できる空間は僅かだ。飛来物は時空のはざまに擦り潰される *
建物が一瞬キーアイテムに向かって縮んだかと思うと弾けた。
瞬時に現れた巨大重力点に空間ごとねじ曲げられ引きちぎられた
物質が重力点の消失と共に弾けたのだ。
* 地球を潰す気は無いらしい。 地軸に異常は無いようだ。 *
瓦礫にYacoは立っていた。
セキセイインコのマッシュはやっとぴちゅと一声、肩で鳴いた。
此処にいても仕方ないわね。
*その通りだ イギリスの彼も気になるのだろ*
〜君は此処に住んでいたのか〜
突然、波動に覚えのある思念が割り込んできた。
「えっ」
誰か思念での会話が出来る人が居るわ。 マッシュ。
*人間の思念力を借りたのは間違いだったようだ*
-
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34話
〜おや 誰かと話しているのですか?〜
*思念波による会話は相手の波動を捕らえなければできない。
Yaco。
思念波エネルギー体にアクセスしたときに察知されたのだろう。
私のは人の周波数とまったく違うので捕らえそこなったということかな。*
2重人格のようなものね。 大沢さん。
〜 何。 〜
やはりあの子を調べていた警察の人ね。
〜 そうか。 やはりあの時察知されていたか。
しかしあの時は思念波の探査は一切しなかったが・・・。
君はいったい・・・・。
あの子の言うとおりに助けたというのか?〜
あたしには関係のないことだわ。
〜 確かにその通りだ。 君が関わっている、いないに関わらず事故は起きてい
た。〜
それで?
〜 私たちは最近現象を認め始めた超常能力犯罪対応として組織された。
私自身も思念波を探査し交信を行うことができる。
君には巨大な力があるようだ。
あの子の一件から協力者の可能性を探っていたんだ。 〜
でも。 あたしはイギリスの・・・・・。
〜 ああ。 君が思念エネルギーの目標にしていた物体に思念を残した彼だね。〜
* ほう。 かなりの思念探知能力だ。
Yaco。 油断ならないな。 *
彼は・・・。
〜 彼が通常の人間ならば恐らく大丈夫だろう。 殺されたりはしていない。
何か拷問に会ったりもしていないだろう。 〜
でもどうして・・・・。
〜 ますます、不思議な人だ。
知らないで使ったというのか?
あれだけ巨大な力を緻密にコントロールしていたというのに・・・・。 〜
* 人間の思念エネルギー体については解明できていない部分が多いが。*
すべてを悟り、神になれるわけではないわ。
彼は無事なのね。
〜 彼は死んでいないと言っただけだ。
力があれば悟れるわけではない。 確かにその通りだ。
だが、力を持ったとき判ったことが有るはずだ。 〜
人の生死と言うことかしら?
あたしはその為に日常の生活を離れてみた。
*深淵が確かにそこにある。 数億年を渡ってきた我々のすぐそばに。
虚無は今にも吸い込みにやって来そうだ。*
〜 そう。 太古から賢者と呼ばれる人は放浪した。
人はどこから来てどこへ帰っていくのか。 〜
どこから来たわけでもなく、帰るところなどないわ・・・・。
〜 その通り。 だが、心霊やその世界の存在を知ることは
出来ただろう。 〜
彼は生きているのね。
〜 おそらくは。
エネルギー体だけの存在に成っていないことは確かだ。 〜
よかったわ。
* しかしこの男何か隠しているようだが。 *
・・・・
〜 何か? 〜
別に。
* Yaco。 この男は気づいているようだ。
我々が心霊の力以外の力を持っていることを。
まだ何に由来する力であるのか判っていないようだが。
ほかに何を知っているのか気になるな。
何しろ組織を持っている。*
そうね。 心霊力以外の力を持っていることを隠す必要はないという事ね。
〜 やはりそう言うことか。
それでは君こそが・・・・・。
とんでもない事になったな。 〜
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35話
一段と雨は激しさを増していた。
Yacoとセキセイインコのマッシュは濡れそぼっていた。
大沢の姿は見えなかった。
新興住宅地で空き地が大半を占めることが幸いして他人の視線はなく
被害が隣家に及ぶこともなかった。
*始めようか Yaco。*
Yacoは素足のまま瓦礫を踏み越えてアスファルトの道路へでた。
わずかばかりの庭を歩いてついた土がアスファルトの上を流れる水で流される。
側溝には川のように水が流れていく。
セキセイインコのマッシュは重そうに飛び立って近くの木の枝に留まった。
雨の匂いと一緒に軽く呼吸しながらゆっくりとYacoは右手を上げた。
しっかりと伸ばされた細い指に突然天空から雷(いかずち)が伸びた。
しゃらんしゃらんと乾いた音とともに8千万ボルトの高圧エネルギーが
吸収されていく。
雷鳴が轟いた。
切り裂かれた空気の衝撃波が辺りを巡った。
木々が揺れ、雨粒もザッと飛んだ。
と同時にYacoの家の瓦礫に変化が現れた。
瓦礫は水に沈むように土中に沈んでいったのだ。
瓦礫は分解されてしまった。
周囲にはわずかにオゾン臭が漂った。
土中の生物にパワーを与えコントロールする。
古代魔術にマッシュが改良を加えたYacoオリジナルなのだろう。
右手を降ろし左手を挙げると同時に再び天空から雷(いかずち)が伸びた。
広げられた指の間を稲妻が飛び交った。
Yacoの黒髪はわずかに逆立っていた。
わずかに呪文の詠唱があったようだ。
Yacoが作り出した更地からは奇妙にもギシギシと音を立てながら
家が伸び始めていた。 雨が土を洗っていく。
時折、閃光が走る。
パワーがリークしているのだろうか。
Yacoの指から、腕から、体から閃光が走る。
しばらくして、飛び交う稲妻を左手で握りしめたYacoの前には
家が崩壊する前の姿で立っていた。
「やはり、魔法だな。」
大沢が傘を差して立っていた。
「・・・・・。」
大沢は傘をYacoに差し掛けようとして止めた。
「必要ないか。」
Yacoに雨は掛かっていなかった。
「そうね。 ありがとう。」
* 敵を作らない方が良いでしょう。 利用されてみるのも一つの手です。*
Yacoは今一度右手を上げた。
セキセイインコのマッシュが身震いして重たくなった羽から水滴をとばした。
まっすぐにYacoの右手をめがけて飛んだマッシュが留まったとき。
かしゃん。
セキセイインコのマッシュは一振りの短剣となってYacoの手にあった。
「預けておくわね」
Yacoは大沢にその短剣を差し出した。
「協力してくれると言うことか。」
その短剣には龍の紋章が生きているかのように浮き出し象嵌されたルビーの
目を見開いていた。
「そういうこと。」
「これはDの紋章・・・。」
「ド・ラ・クール。いにしえの記憶が形になった物よ。」
Yacoはくるりと向きを変えると家に入ろうとした。
最後の一降りだったのか。 にわかにあがった雨。
そのとき雲間から日光が差した。
「あっ。」
日光を浴びたとたんに酷い脱力感とめまいを感じて
Yacoは大沢に支えられていた。
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36話
大澤は支えた体の軽さと柔らかさに少し安心した。
ほのかに甘い香りがふわりと鼻先に届いた。
しかしすぐに、彼女の能力と今受け取った物を思い出し
命を失いかねない行動に出てしまったことに思い至った。
何も起こらなかったことに感謝しなければならない。
〜大澤。 このバカ。 何をしている。 起こらないようにしているのだぞ。
つまらないことに念動力を使わせるな! 彼女の使い魔がお前を引き裂くところだぞ〜
〜ありがとう。 だが、短剣の持ち主でも命を落とすところだったのだろうか。〜
〜いつも万が一を考えろ。 軽率な行動は慎むことだ。 お前がリーダーなのだろう。〜
Yacoは自分が大澤に支えられていることに気が付いてあわてて身を起こした。
「ごめんなさい。 怖い思いをさせたのでは無いかしら。」
「いいえ。 ひとときの安らぎを得ました。」
「そう。 仲間の方が守っていらっしゃるのね。」
と、その時ガクンと大地が揺れ、青白い閃光を放つ暗雲が沸き上がると同時に消えていった。
*退いたか。 あの反撃システムを押さえ込むとは相当の実力者だ。 しかも遠隔で。
大澤とやらも導入体としてかなりの能力が有るのかもしれない。 まあ、命を
落とすようなことにはならないのだが。*
マッシュのミスね。 全く後で、覚えていなさい。
「誰かと通信しているのですか。」
「ああっ いえ」
いけない。 筒抜けよね。
*わたしの存在が探知できないようですね。 大丈夫、Yaco。
めまいも軽いバンパイア症です。 重傷なら灰になっているところですから。
すぐ症状も出なくなります。*
〜深入りしない方がいいんじゃないか? リーダー。〜
〜そんなことは判っている。言われなくても一端引き下がる。
収穫は有ったんだ。〜
〜はい はい リーダー〜
「それでは、職務中ですのでこれで。 またお会いしましょう。」
「あっ はい。」
*おもしろい反応ですね。*
ばか。
〜 嫌われたかな 〜
あちゃ・・・。
しかし、大澤を見送ったYacoは気を取り直して家に入った。
*復元は完璧ですよ。*
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